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日本の学校史

日本の学校の歴史に触れたいと思ったのは、足利を訪ねた際に足利学校を訪れた事から始まります。正倉院宝物などがシルクロードを通ってはるばる日本までやって来たように、学問も陸と海を渡って日本までたどり着き、また歴史が下るごとに蘭学などが入って来ることで多様に変化して来た様子が面白いと思いました(もちろんそこには仏教や儒教など宗教や思想も含みます)。そして、縁があって足利学校の他に弘道館、敵々斎塾と一年のうちに三つの学校史跡に当たる場所を訪れることが出来、三者三様の歴史とその学校があったからこそ動いただろう日本の歴史のいくつかを思い返して、「学ぶ」と言うことについて個人的にもう一度考えてみようと思いました。

 

 

 

 

水戸の弘道館
〒310-0011 水戸市三の丸1-6-29

 

弘道館について

 水戸光圀公でおなじみの水戸、そこにある弘道館は江戸時代の学府としては日本最大を誇ります。水戸駅から歩いてすぐの所にあるのですが、入口かなと思うとぐるりと小学校を回り込むので、その大きさがよくわかります。現在残っているのはその三分の一ですが、それだけでもじゅうぶんな広さがあります。なお、元調練場のあった場所は現在茨城県三の丸庁舎と茨城県立図書館として、また、医学館、武館、天文台があった場所は現在水戸市立三の丸小学校として使われています。当時のままの姿をとどめているのは孔子廟をはじめとする神社や碑などが置かれている一角と、文館、庭に囲まれた正庁と至善堂です。この弘道館は水戸藩の九代目藩主徳川斉昭(烈公として水戸の他の史跡にもその足跡があります)によって設立、幕末を経て今に至っています。

 

学問所で学ぶからには

 この弘道館では、文武両道、見識を広く持つためだけでなく、学んだことを生かし日本の中枢、つまり政治の場面で通用するような人物を育てようと言うのが最終的な目的です。弘道館で学んだからには政治の表舞台に立てるような人物になりなさいと言う、学問所の矜持もあると思います。そして、来賓招かれるお座敷には、「攘夷」と大きく書かれた掛け軸が床の間にありました。弘道館ができたのが江戸の末期という事を考えると、この二文字がとても重く感じます。そして、ここが水戸徳川のお膝元、藩主の肝いりで作られたと言う経緯を考えると、武家が戦うだけでなく、政治や外交にも精通していかなければならなかったと言う時代の移り変わりを感じます。

 

弘道館の科目

弘道館で教えられていたのは従来の儒学や歴史、算術の他に天文台設備を用いた天文、地図、また、社交の場の教養として必要とされる歌、音楽など多彩な科目があります。もちろんそれ等のすべてを網羅するわけではなく、選択することが可能ですが、前の項にも上げた、政治の場、社交の場にふさわしい人物の育成と言う目的が常備された科目でわかります。もちろん武家の子息が通う場所でもあるので、武術も師範を講師にして、剣、槍、弓、馬、鉄砲の他に、自分が上に立った場合の兵学もありました。いかにして戦うかという事も大切ですが、いかにして兵を率いるかという事も教えられていたというところに、将軍家として軍を率いた過去の実績と、幕末の混乱に備えていたのではないか事がうかがえました。

 

藩主や将軍を迎える場として

弘道館の畳の縁は、水戸徳川家が作った場所らしく、すべてあの葵の紋の織模様で飾られています。うっかり踏んだらと思うとヒヤッとしました。当時でしたらそのご威光もあったでしょうし、もっと威力を発揮していたと思います。そして、藩主や将軍が居する間は、少し床が固く、そこだけ床が二重になっているとの事でした。今で言う防犯に当たるのかもしれませんが、床下からもし何かの攻撃があってもおいそれとは通さない頑丈な作りとなっています。また将軍専用の風呂場も設えてあり、水を掛けるだけの場所なのですが、ゆっくり湯に浸かっていられる場所ではなく、常に護衛がついて細心の注意と警戒がされていたと言うのがわかります。将軍家の学校ならでは苦労と言うのも見てとれます。

 

弘道館の庭

弘道館の庭には、何種類もの梅を主にして、庭にほぼ等間隔に木が植わっています。門前はやや観賞用に整備してありますが、その植え方はどちらかと言うと見栄えよりも、いかに健康に木を育て、実を取ることを重視しているように見えます。梅は実は梅干しとして、保存食として、備蓄することができます。梅の他にも、山茱萸(さんしゅゆ)の木など漢方の木もありました(山茱萸は主に滋養強壮、足腰の痛みの緩和など)。このような木が植わっていたのは医学館が付いていた事ももちろん関係あると思いますが、梅と同じようにいざという時の備えのような気がします。この弘道館が立てられた時期や、掲げられている「攘夷」と言う文言、水戸徳川家としての幕府側のプライドを思うと、この庭の梅はただ美しいだけでは済ませはいけない気がしました。

 

 

 

適塾
所在地:〒541-0041大阪府大阪市中央区北浜3丁目3-8

 

私塾から大学の礎へ

適塾は、足利学校(日本最古の学校)と弘道館(幕末の幕府方の学府)を見てきた所、その二つを見て来たなら、ここも見てきたらいいと勧められた場所です。最初は西側の学校を勧められたのかと思って見に行きましたが、この適塾が今まで見てきた二つの学校と決定的に違う点が一つあります。それは、この適塾が大阪大学の元でもあり、今でもその一部を担っている点です。適塾に展示されている物は大阪大学の貴重な資料でもあり、撮影はできません。藩主などの意向で建てられた物ではなく、緒方洪庵によってはじめられた私塾という点も、他の二つは異なります、その証拠に、適塾は大阪の街並みの中に、溶け込むように立っています。なんだか旧家が残っているな思ったら適塾だったと言うのが、私の第一印象でした。

 

庭と土間、学生を支える勉学環境

 適塾はぱっと見はいわゆる「個人宅」に近く、資料が置かれていなければここが私塾だとは思わなかったと思います。しかし、足利学校に広い土間があったように、個人宅にしては大きめの土間があり、表通りからは見えませんが、庭がありました。つまり、学生達の食は賄われており、もっぱら観賞用ですが校庭もついていました。また、足利学校が遠方からの生徒のために寮を持っていたように、二階の板の間は下宿として使われていました。食と住に関しては保障されていて、思う存分勉強することができた事と思います。大阪と言う土地の利もあり、最新の物資や情報もあの幕末期に遅れることなく入って来たのではないでしょうか。創設者の緒方洪庵自身が近代医学者という事もあり、資料の中にはオランダの書物も並んでいました。

 

未来を語った幕末の志士

適塾で学んだ人物には日本史の教科書に出てくる、おなじみの著名人が多く名を連ねていました。その中でも上げておきたいのが、後に幕末の志士たちを自ら宿を開き育てていく事になる吉田松陰、そして、明治以降の日本に多大なる影響を与えた福沢諭吉です。福沢諭吉の『学問ノススメ』は適塾で執筆されました。学問所と一口に言ってもその塾によってそれぞれの色がありますが、適塾は当時最先端の学問や思想を学べるところでもあり、そういった最先端の事を求めるような、当時としては革新的な学生たちが多く集まったのだと思います。ここに江戸(幕府)からは離れていると言う点を足してもいいかもしれません。そして、そんな学生達は血の気も多かったことでしょう、下宿にされていた二階の大黒柱には、刀傷がありました。議論が食い違う時などに思わず出るのが拳ではなく刀だったと言う所に時代と当時の風潮、帯刀できる身分の学生が集まっていたと言うのがわかります。静かな環境で独学と言うより、若者が集まって互いの意見を戦わせていた、そんなイメージがわきました。

 

学校史跡まとめ

日本の学校史跡のいくつか、最古の物、幕末の両極にある二校を見てそれぞれに、特色があったのはもちろんですが、それと同時に共通点もいくつかありました。その一つが庭それは常に、勉学する場所の近くにあって、精神的な安らぎにもなったのではないでしょうか。現在の学校でも栽植があるのはこれらの名残のような気がします。また、どの学校も生徒たちが食に困ることの無いように大きな土間がありました。これは学校給食として今でも残っています。勉学をするうえで、まずその基本となる身体を保つための食を疎かにしないと言う点は足利学校の昔から今も残っています。そして、今でこそ共同生活送りながらと言うのはごく一部ですが、集団で講義を聞くと言う構図もその昔からあったのだと感じました。それは「教室で授業を受ける」と言う形として、今でも残っています。

 


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