静嘉堂文庫

一から学ぶ香

まずお香の道具や香炉の並ぶ展示室に入る前に、香の原料となる香木、伽羅、お馴染みの白檀、料理やお菓子作りのスパイスで馴染みのある丁子(クローブ)、大茴香(八角、アニス)桂皮(シナモン)、樹脂の類では聖書によく出てくる乳香などが香の材料として紹介されており、そのいくつかは実際に香ってみる事ができました。空調の効いた館内でもケースに入ったそれは十分に香っていて、これを実際に香炉などに入れて炊いておくとどんな風なのだろうと言う想像が掻き立てられました。美術品として鑑賞するだけではなく、どのように使われていたのかと言うのを想像するのは、初心者にとってはとても入りやすい展示の第一歩だったのではないかと思います。

 

手のひらサイズの美術品

香と言うと、後述する香炉や香道具にとかく目が行きがちですが、忘れてはならないのが香合。手のひらに乗ってしまう位の小さな香入れですが、細かい絵付けや彫り、蒔絵などがが施されています。まん丸に膨らんだ狸や身を丸めた鹿など形どったユーモラスな物や、贅沢な蒔絵など、それぞれの個性を見比べて楽しむ事ができたのはたくさん集めて展示してあったからこそだと思います。その中でも個人的に可愛らしいと思ったのは、荘子の「胡蝶の夢」にちなんだ古染付荘子香合です。白地に明るい藍色で蝶が描かれているのですが、蝶の形に浮き上がった所に絵付けがされているので、香合の蓋の上を蝶の絵がひらひら飛んでいるいるような不思議な印象を受けました。

 

香炉

香合が手のひらの上の美術品だとしたら、香炉は大きさ共に一つのオブジェ、置物として存在感のある美術品です。さらに香炉という実用を兼ねているので、見て美しいだけでなく、それぞれその形の中に、香を入れるための開け口と香りを登らせるために上部へ向けて開けた口を作品の一部として組み込まれています。単なる穴や隙間の空いた蓋ではなく、鳥ならば、並んだ羽の形と同じに綺麗にくりぬかれていますし、貝ならば表面のうねり模様に沿ってくりぬかれています。中でも綺麗だと思ったのは白鷺の形をした香炉(銹絵白鷺香炉)です。背中に羽の形の穴が三つ空いているのですが、これから香りが登って行くのだと想像すると、香りの羽でも飛んでいくようなイメージを受けます。法螺貝の形の香炉(色絵法螺貝香炉)は寝かせた状態で背になるあたりに穴が開いていたので、水中に漂っていくような香りのイメージをします。香炉からどんなふうに香りが広がって行くのかというのを想像して、作品によってここまで違うものなのかと驚きました。

 

稲葉天目

香と密接な関係のある茶の湯、その席で使われるお茶碗の中でも再現不可能として有名な、三つしか現存しない曜変天目茶碗の一つ、稲葉天目をこの美術館では所蔵しています。香を主体とした展示でしたが、茶の湯にも触れており、この茶碗も展示してありました。そして驚いたのが本物はもちろん展示ケースの中にあるのは当然ですが、この茶碗とまったく同じ形状と重さの素焼きのレプリカがすぐ横に展示してあり、実際に手に取って見る事ができました。手にしてみると、「意外と軽い」、私は標準より小さめの手ですが、「両手で包んでちょうどいい大きさ」でした。こういうことができるのも、所蔵元だからかもしれません。展示室の前室にあった香の原料を嗅いでみることができたりと、全体を通して見るだけでなく体験すると言う事にも重きを置いている展示でした。


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